iPadは素晴らしいデバイスですが、同時に様々な弱点も抱えています。
そのあたりの率直な感想を独断と偏見でまとめてみました。3回シリーズの第1回はiPadのコンセプトについて考えてみます。6月中旬時点で、まだ徹底的に使い込んでいない段階ですから、途中経過的な評価と思っていただければ幸いです。
第1回「iPadのコンセプトを考える」
Appleのウェブサイトでのキャッチは「革命的で魔法のようなデバイス」「しかも、信じられないような価格で」です。
ジョブズ氏は1月28日の基調講演でソファに座りiPadを使って見せました。ステージ上でリラックスしながら、本やWebブラウジングを楽しめる多機能デバイスとしてのコンセプトを強調していました。
同時にジョブズ氏は「NetBookは安売りのノート・パソコンに過ぎない」として、スマートフォンとPCの間の製品としてiPadの優位性を説きました。Appleは新たにノートパソコンとスマートフォンの間を埋める製品として、ブラウジングができて、動画が見られて、音楽を聴くことができ、軽くて持ち運びが容易で、使いやすいデバイスとしてiPadを開発しました。
iPadに使われた技術そのものに革新的なものはありません。革命的なのはハードとソフトの絶妙なパッケージングにあります。
今まで語られてきたiPadのコンセプトをピックアップすると次のとおりです。
「動画・電子書籍・Webブラウジングなどデジタルコンテンツを手軽に楽しめるデバイス」
「PhoneとPCの間を埋めるデバイス」
「モバイル・デバイスの幕開けとなる革命的なデバイス」
「低価格のデバイス」
では、以上のコンセプトそれぞれを評価することによってiPadのコンセプトの優位性を5段階で評価してみたいと思います。
◯動画・電子書籍・Webブラウジングなどデジタルコンテンツを手軽に楽しめるデバイス
★★★★☆
エンターテイメントのコンテンツならばお手軽操作で楽しむことができます。本来ならば、五つ星というところですが、日本ではまだ電子書籍の販売が本格的に立ち上がっていません。現時点でiPadの大きな魅力であるiBooksが本格的に使えないのは大きな減点です。
◯iPhoneとPCの間を埋めるデバイス
★★★☆☆
ジョブズ氏はネットブックに批判的で、安売りのノートパソコンと言っていますが、これは的を射た表現です。確かにネットビックは価格を下げるために非力なCPUを搭載せざるを得ず機能が限られています。ネットブックのコンセプトは低価格でWebを見ることができるノートパソコンです。要するにノートパソコンのダウングレード・バージョンです。
反対にiPadはスマートフォンのiPhoneのアップグレード・バージョンのように見えますが、価格的には大差がありませんし、逆にiPhoneで搭載されている書類読み込みなどで便利なカメラ機能が搭載されていません。
ネットブックとiPadの違いは明確に前者が携帯することを意識したセカンドパソコンで、後者がスマートフォンの拡大版です。
ネットブック・・・比較的高機能だが多少かさばる。
iPad・・・機能は劣るがコンパクトで携帯性に優れている。
こう見ていくと、特にiPadがiPhoneとPCの間を埋めるデバイスとして、ネットブックより特別優れている訳でないことが分かります。
◯新しいモバイル・デバイスの幕開けとなる革命的なデバイス
★★★★☆
革命的とまで言い切るのは辛いので星を一個減点しましたが、iPadの魅力はそのパッケージングにあります。卓越したデザインセンスのデバイスに詰め込まれたアプリの数々が大きな魅力です。
iPodで音楽を聞くことができることは当然で、Youtubeなどの動画も簡単に見ることができます。今までPCが提供してきたエンターテイメントを、直感的かつ簡単な操作で楽しむことができるようになりました。iPhoneと同様に追加したい機能は有料・無料のアプリを好みでインストールすることによって簡単に実現できます。
パッケージングの妙はデバイスのデザイン性、操作の簡潔性、機能の多様性・カスタマイズ性がバランスよく盛り込まれていることです。以前からタブレットPCは存在していましたが、あくまでも高機能なPCの範疇にあってモバイル環境ではバランスが今一つ悪かったのです。iPadによって初めて一般に受けれいれられるレベルの多機能モバイル・デバイスが登場したのです。
◯低価格のデバイス
★★★☆☆
多くのネットブックは3万円~5万円で販売されていて、iPadに特別な価格優位性があるわけであはありません。iPadが低価格といよりは、一般ユーザーにとって高くも安くもない価格設定というのがiPadに対するイメージでしょうか。
iPadは母艦となるPCが必ず必要です。従ってセカンドマシン、サードマシンとしての位置づけになりますから贅沢品の一つといえるかも知れません。
コンセプトの総合評価
★★★★☆
iPadが革命的なのは、その機能にあるのではなくてAppleがこの新しいデバイスを思い切って売り出した勇気と決断にあるのではないかと思っています。かつてMicrosoftのビル・ゲイツ氏はタブレットPCを強く押していましたが、売れ筋に育てるまでには至りませんでした。
その後、iPhoneなどのスマートフォンの普及、ネットブックの登場、ブロードバンド環境の充実など、徐々にiPadがヒットする土壌が醸成されていたのです。その時代の流れを読んで、絶妙のパッケージングを施して売り出したAppleの商品開発力、広報宣伝力には脱帽するほかありません。
Appleは消費者に対して「革命的で魔法のようなデバイス」という表現で働きかけて、新たな市場を作ることに成功したのです。まさにコンセプトの勝利と言えないでしょうか。
最近のコメント